1)端的に言えば「もう一本の手をはやせる」実験系

過剰な手足を追加的に生やせる実験系。過剰な肢の誘導=再生反応そのもの。再生の「させ方」を知っているという事に他ならない。

 

2)四肢再生を極限的にまで単純化した実験系。

四肢とは高度な複雑系である事は言を待たない。複雑系を複雑系のまま解析することは非常に困難である。また、近年のMolecular Biologyの発展に伴い、分子生物学的な比較解析が行われているが、この観点からも複雑系は不適当であると言わざるを得ない。過剰肢付加モデルとは、複雑系である四肢から再生に必要な組織を最小限に絞れる理想的に実験系である。

 

3)「四肢再生 = 神経 + 皮膚損傷」

四肢再生に必要な組織は上記二つである。この二つの作用によって四肢再生は完遂できる。複雑な四肢のすべての構成成分は再生に必要ではなく、この二つの相互作用だけで四肢再生を語れるようになった事は実験上非常に大きな進展であるといえる。具体的に起こる事項を書いてみると以下の通りになる。

 

・皮膚損傷(上皮と真皮の二つに損傷を与える)

・周囲の皮膚から上皮が剥離し、損傷面を覆う(~8時間)

・損傷面に神経がある場合に限って、神経上皮の物理的Interactionが形成される

・神経上皮接触ポイントに再生フィールドが形成される

・再生フィールドによって(真皮)繊維芽細胞が「脱分化」し、再生芽細胞となる

・再生芽細胞が、再生フィールドに集合し、「再生芽」を形成する

・再生芽は「発生過程を模倣」して、四肢を形成する

 

ポイントはいくつかある。

 一つは、神経の存在が何をしているか?である。神経がない場合は瘢痕形成しないものの、「皮膚修復」と表現されるプロセスによって皮膚が修復される。この場合は、再生は起こらない。つまりは、神経が 皮膚修復 再生 の分水嶺として働いていることが分かる。この神経の役割を担う具体的な因子の同定が、この分野にとっての最大のタスクの一つである。ちなみに2013年までにこの問題については当研究室が回答を出せるだろう。

 

 二つめは「脱分化」である。近代的な言葉に直せば「リプログラミング」である。分化細胞が、再生フィールド内でその分化状態を失い、「なんにでもなれる」状態に変貌する。実際には「なんにでも」ではなく、ある程度制限を持った多分化能状態になるのであるが、分化状態を失って未分化様になる事に変わりはない。再生過程に現れる多分化能を有する細胞を(皮膚由来)再生芽細胞という。このような「生体本来が持つ」能力でリプログラミングが可能になるという事は、ユニーク(だとおもう)であり大きな研究ターゲットである。

 

 三つめは、再生芽形成である。再生芽とは、端的には「未分化細胞の集合体」で「肢芽と同等のもの」と言い表すことができるだろう。(肢芽とは、胎児期にある四肢になるもと。四肢原基。)この再生芽の形態形成に関する大きな謎が「位置価」と「インターカレーション」と用語がつけられているものである。二つとの概念上の話であり、誰もその分子実体にかすりもしていないのが現状である。それぞれがどういう意味を持つのかは、話が長くなるので専門書に預けようと思う。インターカレーション(挿入則)についてはFGFの関与を我々は過去の論文で示唆するものの、分子情報の不足からきちんと答えるというところには全く至らない。

これらすべてに大きな進展を与えたのがまぎれもなく、過剰肢付加モデルである。

20112014までに上記ポイントの12は答えをある程度提示できる状態にまで持ってゆけると確信している。また、3のポイントに関しても、過剰肢付加モデルは大きな知見を与えることができる。この事項については2013-14中にReviewとして発表するつもりである。

過剰肢付加モデルについて今少し勉強してみたいと思われる方は是非我々の総説を読んでいただきたい。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22933482